誤嚥性肺炎について

誤嚥性肺炎歯科治療
誤嚥性肺炎が起きるイラストです。

高齢者になると肉体の老化や脳血管障害、認知、意識障害等によりどうしても
嚥下障害・誤嚥を起こしやすくなり誤嚥性肺炎のリスクが高くなります。
最近の統計によると高齢者の死因の5位になっています。
今回はその原因・メカニズム・対処、予防法について簡単に述べてみたいと思います。

嚥下障害の原因

嚥下障害の原因は、大きく分けて3つに分類できます。

A.飲み込むときに使う舌やのどの構造そのものに問題がある器質的障害
  • 舌肥大、舌炎、舌潰瘍
  • 扁桃炎、扁桃周囲膿瘍
  • 咽頭炎、喉頭炎、
  • 頭頚部、口腔咽頭部の腫瘍、異物 
  • 歯の喪失 などe.t.c
B.関係する部位の神経や筋肉などに原因がある機能的障害
  • 認知症、痴呆(種々の精神機能が慢性的に減退・消失)
  • 高次脳機能障害(脳血管障害、脳腫瘍などの器質的脳病変の後遺症)
  • 神経変性疾患 *特定の細胞群が徐々に死んでいく病気
           (筋委縮性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病)
  • 筋疾患 *筋自身が収縮できなくなる疾患
  •        (重症筋無力症、筋ジストロフィー、多発性筋炎)
  • 末梢神経障害 *嚥下関連筋からの収縮指令が筋に伝達される過程で障害が出る疾患
  •        (ギラン・バレー症候群、反回神経麻痺、ラムゼイ・ハント症候群)
  • 唾液分泌機能低下(顎下腺70%、耳下腺20%、舌下腺5%)
C.心理的原因
  • 神経性食欲不振症
  • 心身症
  • うつ病

摂食・嚥下の流れ

  1. 動機:食欲
  2. 食物認知(記憶、経験、環境)
  3. 食物摂取・口腔内移送
  4. 咀嚼 (食塊の形成)
  5. 食塊形成(スプーン状の窪んだ舌背に食塊を乗せ、舌尖で口唇を塞ぐ)
  6. 食物の咽頭への送り込み(舌背が硬口蓋へと持ち上がり、そして舌根と軟口蓋がくっついて食物を蠕動運動も手伝って送り込む)
  7. 咽頭通過 ⇒誤嚥の危険性
  8. 食道通過 (喉頭の挙上により食道へ)
  9. 消化管(胃・腸)(蠕動運動により胃へと運ばれます)

高齢者の現実的問題

若い人でも考え事をしながら、あるいは急いで飲食をするとつい食べ物が喉に詰まったり、
誤飲したりむせたり咳き込んだりすることがあります。
ましてや高齢者になるとどうしても筋の働きが弱くなったり、組織の弾性も低下します。

上記に記した原因等も加味されてくると、高齢者の誤嚥は避けて通れない問題になります。
中には”不顕性誤嚥”と言って誤嚥してても全く症状を表さない状況から、つい肺炎や窒息を起こしてしまうという現実もあります。むせないで誤嚥するのは、むせる時よりはもっと危険です。

誤嚥を避けようと管を通して”経管栄養法”という方法も選択肢の1つではありますが、
根本的にこの選択は生きる楽しみが無くなってしまいます。
またそれをもってしても、安静時、睡眠時の細菌を含んだ唾液の誤嚥は防ぐことができません。
更には胃から食道を通じ内容物の逆流も起こりえて誤嚥とするという問題もあります。
従って経管栄養法も完全ではなく、できるだけ予防・対処処置や訓練をしながらでも
生涯食べる楽しみ、前向きな人生を全うしたいものです。

嚥下をスムーズに行うには・・・

嚥下のメカニズム

  • 重要なポイントは”喉頭蓋”が正常に働いていれば誤嚥は生じないのです。

  • この”喉頭蓋”とは空気と飲食物が咽頭で一緒の通り道を使うことになってるのですが、喉頭という部分で道が2つに分かれ空気は気管支・肺へ、飲食物は食道・胃へ導かれていくのです。
  • そこで言わば交通整理をしてくれるのが”喉頭蓋”です。

  • 息をしてる時には気管支の入口で蓋を開けて空気を通してくれます。
    その時には食道は気管支の後ろ側で押しつぶされたような扁平な形になっています。
    飲食物が来た時には”喉頭蓋”が気管支の入口を閉じて、人は一瞬息を止めた状態となり
    飲食物を食道へと送り込んでくれてる訳です。

  • いろいろな要因で、この交通整理が上手くいかなくなったことに起因して誤嚥は起きています。

  • 嚥下は反射性の運動です。無意識化で一連の嚥下運動は行われます。
    加齢による反射機能低下や筋力(舌筋、咀嚼筋、表情筋)の低下、軟組織の弾性低下、唾液量の低下、脳血管障害、認知など脳機能の低下により上手くいかなくなってることが誤嚥の本質です。



誤嚥を起こさせない工夫

  • 食前に会話や咽喉のアイスマッサージも良い方法。

  • 食前の嚥下体操をする。
     鼻から息を吸い込んで、口をすぼめてローソクの日を消すようにゆっくりと吐く。
     これを数回繰り返して行う。

     
    口すぼめ体操

    食事前にこの口すぼめ体操を行うと嚥下がスムースになります。



  • 食事時は、食事に意識を集中することも大事な要点になります。

  • 目で食べ物を認識させる(視覚・嗅覚に訴える)

  • ゆっくりと食事をとる。水分などは特に息をしっかり止めてから飲む。
  • 口の前方に食物を置き、さらに口唇に触れさせるなどして感覚受容器を刺激する。
    (食の認知を十分に機能させる)

  • 咀嚼から嚥下に移行するには、脳が覚醒(はっきり目覚めていること)していることが必要。
    嚥下訓練も大事だが、口腔ケアも常日頃しっかり行い口腔細菌を減らしておくことも大事。

  • 食事時の姿勢も大事です。
    ・ベッドならば30度仰臥位(気管が上で、食道が下になる)で、頸部前屈で顎をできるだけ
      引いた形が一番誤嚥を起こしにくい姿勢です。
    ・椅子ならば60度位が最適で、重力も有効利用していく。

  • 飲み込む際は、横向きにすると誤嚥せず上手く嚥下できます。
    汁物を交えながら、交互に左右の横向き嚥下をすると上手く食道へ誘導できます。
    「横向き嚥下」⇒咽頭の梨状陥凹部のお掃除

  • 「交互嚥下」を取りれる。
     一口食べたら今度は空嚥下又は1~2ccの冷たいお水を飲む交互嚥下をするとのどに残った残留物を減らすことができます。

  • また喉頭蓋の周りを綺麗に保つ為にも「うなずき嚥下」をすると衛生的に良いでしょう。
    「うなずき嚥下」とは頸部を後屈させて”冷たい少量の水などをごっくん”、
    そして今度は前屈させて”ごっくん”を2~3回繰り返すものです。

    「うなずき嚥下」をすると喉頭蓋の周りの付着物が綺麗にお掃除できます。
    (要注意:喉に食物が残ると声がガラガラ声になる等)
     「うなずき嚥下」⇒咽頭の喉頭蓋谷のお掃除

  • 呼吸法でも防ぐ手立てがあります。
    息を十分に吸い込んでから止め、嚥下する。
    そして食物を飲み込んだら、その後に意識して勢いよく息を吐く又は咳をする。

  • 食品の加工(水には増粘剤、食品には葛や片栗粉でとろみ。)
          ゼラチンはOK、しかし寒天は✖ きざみ食は危険で✖)

  • 食事が終わったら、2時間位は座っておく。
        (食後、椅子で寝てしまったら30度位上体を起こしておく)

  • 夜間睡眠時にはベッドの角度を、15度ベッドアップして胃からの逆流を防ぐ。

  • 歯の治療や義歯は必ずしておく。(口腔内空隙の確保、下顎位の変位を防ぐ)

 

おわりに・・・

1度誤嚥性肺炎になると、繰り返しやすくなります。
気管支や肺胞の粘膜が損傷し抵抗力がなくなり、誤嚥したものを外へ排泄しにくくなるからです。

加齢で高齢化すると避けては通れない”誤嚥”という問題。
少しでも今回の記事が、誤嚥でお困りの方のお役に立てば幸いです。

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